
九月の蝉 ( II )
二度と、この写真(撮影1999年)を撮影する事は出来ない。
2012年9月5日午後10時過ぎ、その歴史ある木造校舎は、夏の終わりの夜空を真っ赤に染め、全焼した…
長野県上田市にある浦里小学校は1932年(大正13年)竣工した築88年の名門校だ。
映画・TVのロケにも度々使われ代表的な作品には、「ひめゆりの塔」や「私は貝になりたい」など数え上げたらきりがない。
放火による出火だそうであるが、いまだに、犯人は特定されていない。悲鳴のような音をたてて、焼け落ちていく柱や壁にゆかりのある多くの人々が「変わる事ない記憶を探し」涙した。95歳以下の地元民はすべて、世話になった事になる。
国宝級以上の思い入れのある、文化的価値のある建物なのだ。そして現在も生徒が学ぶ…
ニュースで知った私はすぐに上田に向かった。
そして、その光景に唖然とした。「誰にも胸奥にあり続けて忘れえぬ想い」というものがある。
まだ残る焦げた匂いが、無情を掻き立てる。
唯一焼け残った二宮尊徳(金次郎)の石像が、私には高貴な仏像のように見えた。
大正、昭和、平成を、ずっと、ずっと見てきた石像は、今、何を思うや…
かたわらで、夏のなごりの百日紅(さるすべり)が少しの風に、ほらほらと花びらを散らせている。
遠くで9月の蝉が何事もなかったかのように鳴いていた‥‥by 濱 覚
(2012.09.18)